「経営の勘どころ」の第四回目は‟顧客編”です。
私自身のこれまでの経営経験から「顧客の存在をどのように捉えればよいのか?」。
私なりの捉え方を示したいと思います。
(注)本文中で使用する「顧客」という意味は、‟ご愛顧いただいている既存客”という意味だけに限定していません。
広く、新規客、既存客、そして、見込み客の総称として使用しています。
~顧客どのように捉えるか?6つ視点~
- 視点-1:顧客は絶対的な存在
- 視点-2:顧客とは対等な関係
- 視点-3:顧客ニーズは潜在の中にこそ価値がある
- 視点-4:顧客には4種類ある
- 視点-5:顧客は創り出すもの
- 視点-6:顧客は浮気性
では早速、それぞれの項目について解説いたします。
視点—1:顧客は絶対的な存在
➡当然だが顧客の声には素直に、積極的に耳を傾ける必要がある。
なぜなら‟絶対的な存在”だからだ。
ただし、絶対的な存在だからといって、顧客を‟神様と崇めたてることはしないこと”。
むしろ、売り手・作り手の供給者こそが神様となるべきと思う。
そして、買い手の顧客はその神の信者(ファン)にすべきなんだろう。
ということからすると、絶対的な存在である顧客は、神様の存在ではないので、顧客から発せられる声の中身には、正しいことと間違っていることが混在していると思ってよい。
はっきり言って決して顧客の声をそのまま鵜呑みにしないことである。
しかし、鵜呑みにはしないが、その顧客の声というものは顧客にとって‟事実”ということである。
その声がたとえ間違っていても、勘違いしていることであってもその顧客の主観による受け止め方という意味で事実であり、客観的な真実ではなくともその顧客にとっては事実なのだ。
よって内容によっては厳粛に受け止めなくてはならない。
そして、厳粛に受け止めた者の中には、業務改善や新たな商品、サービスの開発要素として活用していくこともできる。
視点—2:顧客とは対等な関係
➡顧客との関係は‟主従関係ではない”。
昔よく言われた「お客様は神様」との捉え方に大きな勘違いがあり、お客様の発する言動に‟絶対服従”すべきといった風潮がかつてあった。
この言葉は演歌歌手の三波春夫さんの有名なフレーズだが、実際の意味は
「ステージに立ち自らがお客様の前で歌う時には、神前で祈るときのように雑念を払い真っ新(さら)な心にならなければ完璧な芸を披露することはできない」
とする心構えを語ったもとだ。
顧客との関係は主従ではなく本来、‟対等”であるべきだろう。
元来、商取引の原点は物々交換であった。主従関係となってしまい自らが僕(しもべ)となることはおかしいこと。
対等であれば、悪影響を与えるような顧客、理不尽極まりない顧客に対しては、「選別してよい」。
時に「顧客指導をしてもよい」のだ。
もっと言えば、「拒否することも正当な権利である」と言ってよい。
視点—3:顧客ニーズは潜在の中にこそ価値がある
➡顧客のニーズというものには基本、2種類ある。顕在と潜在のニーズだ。
ここで大切なことは「顕在化したニーズに惑わされないこと」である。「顕在化したニーズを全力で追いかけてしまわないこと」だ。
「何を言いたいか?」というと、顕在化しているニーズというものは、広く誰もが気づいているものである。
そして、既に表面化している顧客ニーズであるが故に商売上、ビジネスチャンスととらえ複数の企業が供給側として参入する可能性が高い。
しかも、顕在化しているということからして、そのニーズは長く継続されるとは限らないだろう。
さらに、顕在ニーズをビジネス化する多数の競合企業によって供給過多となり需要も減少してしまう可能性をもっているということである。
このように考えると、顧客ニーズというものは顕在化する前、つまり、「潜在するニーズにこそ成長するビジネスチャンスはある」と言える。
肝心な視点は「顧客の中にくすぶっているニーズ」、もしくは「顧客もまだ気づいていないニーズ」を見極めることだ。
このことはある種、「マイニング・ザ・マイナーズ」(mining the miners)という言葉が当てはまるように思う。
‟mine” は「採掘する」という意味。‟miner” は「採掘する人」。
簡単に言うと「奥に潜んでいる新たなニーズをつかんだものが成功する」ということである。
*マイニング・ザ・マイナーズ:アメリカのゴールドラッシュ時代の言葉で、「金鉱を掘り当てるのではなく、金の採掘者を発掘しろ」ということを意味している。
金を掘りに来た人が金を堀った際、ズボンのポケットにそれを入れていたが簡単に破れてしまう。
そこでポケットを丈夫にして成功したのがあの「リーバイス」。
視点—4:顧客には4種類ある
➡顧客を4つに分けて考えよ。「選ぶ人、決定する人、支払う人、利用する人」。
例えば、新車を購入しようとしている顧客がいるとする。
「利用するのは若夫婦の夫」、「選ぶ人は妻」、「決定するのは夫」、そして、「支払うのは親」ということだってあるだろう。
つまり、顧客は一つの購買行為に対して複数の関係者が関わっていることがよくあるのだ。
このことをしっかりと踏まえたマーケティング活動が必要であり、それぞれの‟ターゲットに向けたアプローチ”がプロモ―ション展開にとって重要となることが多い。
視点—5:顧客は創り出すもの
➡顧客とは‟創り出すもの”。
‟創り出す”とは新たな「顧客のニーズを創り出し」、「新たなマーケットを創り出す」ことを意味する。
「顧客の創造」( to create a customer)というとドラッカーを思い出すが、私自身は、この言葉は「顧客のニーズから新たなマーケットを創り出すこと」と解釈している。
例えば、回転寿司というビジネスを考えてみて欲しい。
今や世界中に普及しているこの回転寿司は、従来、顧客の顕在ニーズにはなかった。潜在ニーズにもなかった。
ある日突然、企業側が顧客に新たなニーズを喚起し、新たなマーケットを提供したと言ってよい。
寿司を顧客が注文する前から次々とベルトコンベアーで回転させ多様な商品を見える状態にする。
顧客は出てくる多様な寿司の中からその場で選択し食する。
今では、オーダーも自由にできるがこの「回転寿司」、伝統的な寿司の食し方における既成概念を根底から変えた。
そして、“消費行動のニュースタイル”を創り上げたと言える。
画期的なビジネスモデルのイノベーションである。
今日の言葉を使えば‟DX”と同じ価値をもっている。素晴らしい顧客の創造を見事に物語っていると思う。
視点—6:顧客とは浮気性
➡元来、顧客とは‟浮気性”と思ってよいだろう。
この浮気性は顧客の自然な振る舞いと思う。
なぜなら、より良いものが、より安く、より便利に手に入れば、直ぐに購入先を変えることは当然至極だからだ。
極めて理に適っている消費行動であり、このことを前提に企業側は顧客ニーズを柔軟に捉え新しい商品の開発、サービスの開発、そして、ビジネスモデルの開発をすべきと思う。
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