「経営をやめたい」と思ったらどうすればよいのか?

「経営をやめたいが、どうしたらいい?」

つのだ

普通、他人に気軽に尋ねるようなことではありません。

が、親しい間柄ですと本心なのか愚痴なのか、私にこのようなことを言ってくることがあります。

私は半分、冗談で返すようにしています。

「‟やめたい”と思って、直ぐにやめることができるなんて、恵まれているね

と。

つのだ

冗談でもこのこと、客観的に正しいと確信しています。

「経営をやめたい」からといって‟できるものではありません”

「創業は易し、守成は難し、承継は至難の業」

なのです。

至難だからこそ、経営をやめるにはそれ相応の覚悟、準備、手続きが必要なのです。

つのだ

これが事業承継を経験した私の率直な考えです。

はじめに、事業承継についての重要なポイントを先にまとめておきます。

《経営者のバトンタッチ・上手なやり方》

  • 経営者は早い段階から後継者をどうするか方法論を決めよ。(企業の出口戦略)
  • 方法論が決まったら次に着手のための指針を明確にしておけ。(事業承継の指針)
  • 心身ともに疲弊してしまってから考えるのでは遅すぎる。(思い付き、場当たりを回避)
  • 経営に行き詰っても‟経営者をやめたい”などと決して口にしないこと。(軽はずみ言動は事を悪化させる)
  • 理想は、「第三者の誰でも継ぐことができる会社」に仕上げること。同時に「第三者が是非、引き継ぎたい」と思う会社をつくり上げること。(ゴール設定が必要)
目次

1.「経営をやめたい」って、どういうこと?

「経営をやめたい」。

ご多分に漏れず、経営者である私もそのような感情を抱いたことはありました。

経営者も人の子、生身の体、行き詰ったりすれば「もうやめたい!」といった気持ちになることは分かります。

ほとんどの場合、感情に任せての愚痴の類が多いように思います。

愚痴なら「あまり、軽々に口にしない方がいいよ!」「いつも愚痴っていると、いつか社員の耳に入り士気をさげ、ついには優秀な社員から辞めていき内部崩壊に」、その結果、倒産といった取り返しのつかない悲劇を招くことにも。

つのだ

まさしく、“嘘から出た実”となりかねない。そう忠告します。

もし、本気だという場合は、事情を丁寧に聞きます。

その事情によっては、進め方が大きく異なってくるからです。そして、このような確認をしています。

「経営をやめたい」とは
(1)「経営者は辞めるけど事業は存続する」と理解してよいのか
(2)もしくは、「事業も止めるということなの?」

つのだ

と聞き直します。

「経営者を辞める」ということは、普通、後継者にバトンタッチすることを指します。

つまり、‟事業承継”です。

ところが、「事業までも止めたい」ということになると、会社自体をたたむということになります。

これは一般的に‟廃業”です。

もし、事業の中身が相当悪い状況では‟廃業”ではなく‟倒産”の可能性もでてきます。

つのだ

いずれにしても「企業の出口」を意味します。

2.企業の出口を整理してみる

ここで、一度、企業の出口を整理しておきます。

企業の出口とは、「自分が社長を辞めるときに会社をどうするか」ということ。

大きくは5つの出口があるでしょう。

  • 身内承継 (子供、親族等)
  • MBO(EBO) (社内人材に継ぐ)
  • M&A(LBO) (対外の会社に継ぐ)
  • IPO  (株式公開)
  • 廃業・倒産 (破産・民事再生・会社更生)
  • 放置(夜逃げor自殺など)

用語解説-1(②~④)

・MBO(マネジメント・バイ・アウト)とは「Management Buy-Out」の略で、会社内の親族外経営陣に継ぐこと。

・EBO(エンプロイー・バイアウト)」とは「Employee Buy-Out 」の略で、社内の親族外社員に継ぐこと。

・M&A (エム・アンド・エー)とは「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の略で、文字通り「企業の合併・買収」のこと。社外の企業、第三者に譲る。

・LBO(レバレッジド・バイアウト)とは「Leveraged Buy-Out 」の略で、譲渡企業の資産や今後期待されるキャッシュフローを担保として譲受企業が金融機関などから資金調達をして買収すること。

・IPO(アイピーオー)とは「Initial Public Offering」の略で、通常「新規公開株」や「新規上場株式」と訳される。Initial(最初の)、Public(公開の)、Offering(売り物)」の意味から未上場企業が新規に株式を証券取引所に上場し投資家に株式を取得させること。

*MBO、EBO、LBOは広義ではM&Aの概念に含まれることもある

用語説明ー2(⑤の廃業、倒産)

つのだ

会社が債務超過に陥り経営続行が難しい。

つまり債務の支払いができなくなった時か、半年の間に不渡り手形を2回だすと、銀行をはじめ調査機関などでは実質倒産と認定しています。

そして、その後の処理をすることを一般的に倒産処理もしくは債務整理と言います。

*政府は2026年をめどに約束手形利用を廃止するよう業界に呼びかけている

この時、

  • 会社をたたむ方向(廃業)でいく「破産や特別清算」という清算型倒産処理手続をするか
  • 会社を継続する方向(再建)でいく「民事再生か会社更生」という再建型倒産処理手続をするか
つのだ

を判断します。

破産や特別清算では会社自体の存在が無くなることを指します。

清算は比較的きれいな形で会社をたたむことができます。

但し、負債より資産の方が多い場合に限ります。裁判所の選任した破産管財人が清算をする会社の資産調査を調べ、最終的に債権者に配当をしたうえで終了となります。

ところが債務超過となり売掛金が相当たまり、完全に行き詰ってしまったような場合、最悪、社長の自死や夜逃げなども起こりうるわけです。

つのだ

実際、私の周囲でもこのような事態に陥ったケースはありました。

一方、民事再生と会社更生はあくまでも再建を目的とした法的手続きです。

(再建型倒産処理手続)民事再生は裁判所の監督のもと再生計画を立て債権者の同意を得ながら再生計画を実行することになります。

会社更生についても更生計画を立て、債権者の同意を得て更生計画を実行することになります。

どちらも「再建型」の手続ということもあって、企業の再建のために債務の一部が免除されます。

つのだ

私自身、債権者としてこのような債務減額を余儀なくされる債権者集会に数回、参加したことがあります。

民事再生と会社更生の違いについては、どちらも会社の再建を目的としていますが、民事再生は主に個人事業主や中小企業が対象となっているのに対し会社更生は比較的大規模な会社が対象となっています。

また、決定的な違いとして、民事再生では経営者はそのまま経営を続けることができますが、

会社更生では原則として代表者などの経営陣が交代しなければなりません。

3.事業承継に対する指針をもつこと

では、私が実際に事業承継を実現し、その過程から得た教訓を「手堅い事業承継‐10カ条」にまとめてみました。

事業承継の指針ですので、上記に示しました企業の出口の分類から言えば①~③に該当する経営者バトンタッチのケースです。

~手堅い事業承継‐10カ条~

第1条:自らの使命に従い理想とする企業像を明確にしておくこと
第2条:ハッピ—リタイアメントのイメージを持つこと。そして、あらかじめ引退時期を決めておくこと
第3条:早めに後継社長の候補、条件等を決めておくこと
第4条:毎年、自社の企業価値を査定すること
第5条:属人的要素をできる限りなくし、第三者に自社譲渡ができる体制にしておくこと
第6条:人材の採用、定着に向けた人事・育成体制をつくること
第7条:安定した事業、将来性ある事業、しかも自社の強みを生かした事業をもっていること
第8条:財務内容が総じて良く、自己資本比率が高く、借入金が少ないこと
第9条:不良債権をつくらない。粉飾決算を決してしないこと
第10条:コンプライアンスとガバナンスの効いた経営体質をつくること

つのだ

正直、上記の10か条がすべて整っている会社はあまりないでしょう。

特に中小企業においては、コンプライアンスなどはあいまいなことが多く、

ガバナンスに至っては経営と資本の分離がされていないケースが大半。

つまり、オーナー企業や同族企業となっていることからしても難しさがあります。

しかし、今日の時代にあっては、このコンプライアンスやガバナンスは年々、注視されていて中小企業であっても重視すべきことです。

もし、この部分が相当いい加減に放置されているとなると事業承継ははじめから成立しないように思います。

4.感情論ではなく計画的に、そして、ハッピーリタイアメントを!

「経営をやめたい」

という感情は経営者も人間である以上、抱くことはごく自然と言えます。

つのだ

しかし、そのような感情論は意味を成しません。

要は、遅かれ早かれ社長を交代するわけですから感情論ではなく冷静沈着にして計画的であるべきなのです。

経営が難しい状況になり「心が折れた時」、または、高齢、もしくは病気となり「体がもたなくなった時」、‟もう経営をやめたい!”となると‟事はすでに遅し”の場合がほとんどです。

そのようになる前に、計画性をもって先取りした準備に入っておくことが重要です。

私の経験から言えば、バトンタッチしたいと決めた年から逆算して10年前から準備に着手(体制を整え、業績を高め安定化する)することが理想。

つのだ

10年あれば上記の10か条の8割ほどは整えることができるように思います。

勿論、それぞれの企業の事情や状況によりますが・・・。

8割整えば、「喜んで後継者になりたいという会社」、「是非、社長をやらせて欲しいという人材」が現れると思います。(もし、10年は難しいとなれば、最短でも5年)

つのだ

私は幸い事業承継を理想の形でできたと思っています。

(私が起業した企業の1社のケースですが)それは、早い段階から計画的に着手してやってきたからです。

自慢話となりますが、少なくとも上記10か条の8割は、10年以上かけ事業承継の時期までには整っていました。

その努力の甲斐もあって全面的ではありませんが、ハッピ—リタイアメントが実現できました。

ここからは、経営をやめたいと思う経営者の理由や背景、そして、対応や対策などについて私自身の体験も踏まえながら、実際に見聞きしたこれまでの事例から解説いたします。

つのだ

まず結論ですが、「経営をやめたい」と思うきっかけは3つあると思います。

  1. 業績悪化
  2. 後継者不在
  3. 自信喪失

これら3つがほとんどの場合、当てはまるのではないでしょうか?では、一つ一つ説明いたします。

1.「経営をやめたい」と思ってしまう3つの経緯

‟業績悪化”とは

「事業が時流に乗っていない」、「事業が顧客に支持されていない」。もしくは、「事業を改革推進する力がない」、「人材が確保できない」。
さらに「社内の不祥事」などによって、業績が悪化してしまう。よって赤字がかさみ借金過多となって、経営者の個人保証に限界がきて経営存続が難しい、といった状態です。

このような状態になるとほとんどの経営者は経営続行を断念するのではないでしょうか?

‟後継者不在”とは

経営者自身が引退を希望する時期に「どうしても経営を継いでくれる担い手がいない」というケースです。

そのような状況に陥った場合、究極の選択として「会社をたたむしかない」と判断することも多いと思います。経営者自身が引退を考え始める経緯には‟年齢からくる経営手腕の限界”があるでしょう、

さらに、年齢だけに限らず‟健康上の問題”もあるでしょう。

このような背景から自らの意思で経営の現場を早期に外れた方が賢明と考える。

つのだ

至極当然なことです。

しかし、いざ引退を真剣に決意したとしても準備不足もあって後継者が見当たらないことはよくあること。

後継者を誰にするかを考えて時間ばかりがすぎる、といったこともあるでしょう。

つまり、決断しても実行できないという現実の壁。

つのだ

ついには廃業かM&Aか?見たいな選択肢を模索しだすわけです。

‟自信喪失”とは

経営者自身が自らの経営能力への自信を失った時、もしくは存在価値自体を見失う時に現れます。

経営者と日々、意思決定をしているわけですが、結果がことごとく裏目にでてしまうといったケースでは、経営を続行していく意思、感情、更に実務行動が極端に低下しまうことがあります。

そのような時、「もう、私にはムリ!」、「誰かに変わって欲しい」といった自らの限界値を認めてしまう。

つのだ

経営者も生身の人間。

経営の全責任を負っているだけに、経営の現場で起きている諸問題には一喜一憂することは多分にあります。

そして、その一憂が慢性化すると「知らず知らずのうちに自信喪失に陥ってしまう」とは想像できることです。

自信喪失はストレス耐性と胆力の欠如と言ってよいでしょう。

2.どのような対策が考えられるか?

‟業績悪化”には5つのニーズを捉えることで解決への道筋をつくることです。

つのだ

これが私の答えです。

解決とは黒字経営を安定して持続できることを指します。

その5つのニーズを十分意識し企業行動をとることが、業績好調とするための経営者の必須課題となります。

その5つとは・・・

  • 時代のニーズ
  • 社会のニーズ
  • 市場のニーズ
  • 顧客のニーズ
  • 社員のニーズ

▶時代のニーズとは

SDGsに代表されるように持続可能な環境との共生などを意味します。

つのだ

しかも、このニーズは全地球的に求められています。

つまり「環境に優しい事業展開をしているか?」

そこが問われているわけです。

最近ではロシアとウクライナ、またイスラエルとパレスチナなどのような戦争勃発、言い換えますと地政学的リスク(特定地域が抱える政治的、軍事的、社会的な緊張)は近年高まっています。

経済的に捉えればコロナ禍にも発生したディカップリングなども時代のニーズを新たに生み出しているように思います。

*デカップリング(Decoupling)とは、経済や農業・環境など諸分野で使われる「分離」「切り離し」といった意味 。

▶社会のニーズとは

企業のコンプライアンス(法令遵守)、ガバナビリティー(統治能力)、そして、アカウントタビリティ(説明責任)などが主たる内容です。

つのだ

そこに社会インフラとしてSociety5.0の世界が既に始まっています。

また、スロー社会やコンパクト社会、そして、ソーシャル社会といったキーワードもそれぞれ社会ニーズを表現していると言えます。

▶市場ニーズとは

代表的な視点では「モノからコトへ」とよく言われているマーケティング現象などを指します。

昔であればプロダクトアウトからマーケットインへ、そして、今はカスタマーインからソーシャルインなどの一連の流れも市場ニーズを物語っていると言えます。

▶顧客ニーズとは

つのだ

今日、エシカル消費(倫理的消費)などが代表的でしょう。

また、コロナを経験してから一層ニューノーマル化が浸透してきたことや、消費スタイルもシェアリングやサブスク化してきたことも全て顧客ニーズと直結していると言えます。

▶社員ニーズとは

「ワークライフバランス」をはじめとするES(従業員満足度)を主に意味します。

そして、最近よく聞くようになりましたウェルビーイングも社員ニーズの範疇に入ります。

*ウェルビーイング(Well-being)とは、Well(よい)とBeing(状態)が組み合わさった言葉で、心身ともに満たされた状態

対策

これら5つのニーズ(要望や必要性)が経営方針に組み込まれて組織全体、さらに、個々の活動に反映されていることが企業の業績を決定づけると考えています。

つのだ

‟後継者不在”について、客観的な現状認識から説明します。

現在、日本の経営者の高齢化は年々進んでいます。

中小企業庁『2022年版中小企業白書』によると、2020年における経営者の平均年齢は62.5歳で上昇傾向にあります。

そして、帝国データバンクの調査によると2020年における後継者不在率は65.1%です。

つまり、経営者がどんどん高齢化しているのにもかかわらず後継者は3分の2いない、といった状態なのです。

つのだ

普通に考えてみると分かります。

もし、自分が高齢の経営者だとしますと「もう歳なので早く後継者にバトンタッチしたい」と思うでしょう。

しかし、後継者は同族、非同族関係なくいない。

「じゃあ、M&Aで後継社(他社)に譲ろうか」と考えます。

つのだ

M&Aは優良企業なら実現できるでしょう。

しかし、そうでない場合、「借金を背負ってまで受け入れる企業はあるか?」と問えば50%以上の企業は無理と回答するでしょう。

なぜなら、中小企業の黒字企業の割合は2018年度、全体の37.9%となっているからです。

つのだ

(国税庁の調査結果)約4割です。

つまり、赤字企業が6割ですので、基本的に赤字企業は余程、特殊なノウハウ、もしくは貴重で重要な取引先を持っていない限り、借金を背負ってまで引き受ける企業は少ないでしょう。

対策

後継者問題は現社長がいつ退任し後継者にバトンタッチするかを明確な時期を決めておくことです。

そして、その時期から遡って少なくとも5年、欲を言えば10年ほど前から準備に入ることを勧めします。

つのだ

準備の中で一番大切なことは黒字経営を継続できることです。

そして、社内をはじめ対外的な商取引において法整備が行き届いていることです。

もう一つ、肝心なことがあります。

それは、会社の活動自体が属人的でなく組織的に展開されていることです。

これらのことを10年ほどの年数をかけて改善と向上に努めていけば、社内だろうが社外だろうが後継者はM&Aを含めて見つかると思います。

‟自身喪失”については極めてセンスティブな部分かと思いますが、あえて対策を整理しますと2つあるように思います。

つのだ

自身喪失とならないための自己研鑽とも言えるものです。

一つ目は、経営者の仲間を増やすことです。

もしくは、経営者の集まっている会に所属し人間的な交流と経済活動における情報交流を頻繁にするとよいと思います。

このことで、自分の悩みや迷い、もしくは自身の過信や自信喪失も未然に防げるでしょう。

二つ目は、社員との接触機会を増やすことです。

公式、非公式どちらも重要と考えます。

雑談の場、会議の場、面談の場、そして、業務同行の場などを頻繁にする。

しかも、ある程度計画的に実践していく、特に、経営幹部を中心に関係を深めることが根拠のない自信喪失や杞憂自体を減らすことになるでしょう。

それ以上に接触機会の質を高め、量を増やすことが的確な経営判断をする上でとても有益となります。

つのだ

その結果、会社の舵取りにおいて大きな過ちを犯すことがなくなるでしょう。

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この記事を書いた人

中小企業の社長に向けて、「毎年黒字企業」になる方法を発信しています。20代で株式会社3社を起業。約35年間、経営者として活動中。国立大学でも客員教授を約20年間務めています。バンドでギターを弾きまくってます。

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